痛みや苦痛を伴うがん治療のイメージを覆す、「陽子線」を使用したがん治療。この治療法に特化した国内有数の医療施設が、鹿児島県指宿市にあることをご存じだろうか。海外からも患者を集める「リゾート滞在型」の陽子線がん治療施設の取り組みに迫った。
身体的負担が少ない
陽子線がん治療
国内屈指の温泉地・指宿市の高台に位置し、放射線の一種である「陽子線」を用いたがん治療を専門としている『メディポリス国際陽子線治療センター』。治療期間中、隣接のホテルに滞在しながら温泉やゴルフ、観光地巡りを楽しめるのが最大の特徴で、近県の宮崎や熊本のみならず、海外からも多くの患者が訪れる。2011年に治療を開始してから、これまでに6000例以上の治療を実施。昨年は過去最大の749人の患者を受け入れ、これは全国19施設ある陽子線治療施設の中で2番目を数える。
陽子線治療とは、原子核などのミクロの粒子を使用した粒子線治療のひとつ。陽子線治療では一番軽い元素である水素を用いている。陽子線が体内に照射されると、正常な細胞をほとんど傷つけることなくがん細胞に到達し、細胞核のDNAを攻撃。それによりがん細胞は死滅し、再度増殖することもない。このようなメカニズムで治療を行うため、外科的手術や抗がん剤治療などにみられるような身体的な負担はほとんどなく、高齢者であっても比較的安全に治療を行えるのが特徴だ。また、治療箇所の形態や機能を維持することができるので、治療後のQOLも良好に保つことができる。
陽子線治療が行えるのは、国内で最も陽子線治療の件数が多い前立腺がんをはじめ、肺がん、肝臓がん、膵臓がん、腎臓がん、頭頚部がん、骨軟部がん、乳がんなど。腫瘍が臓器にとどまっており、広範囲への転移がないことが適応条件とされている。これまでおよそ300万円という治療費がネックとなっていた陽子線治療だが、近年、公的医療の適用範囲が拡大。2016年に小児がん、2018年に前立腺がん、頭頸部がん、骨軟部腫瘍の一部が保険適用を開始し、2022年4月からは大型の肝臓がんや、肝内胆管がん、進行膵がんなども適用となった。今後も公的医療保険が適用されるがんは増えると考えられており、より治療費の負担が少ない身近な治療となってきている。 陽子線治療は、陽子を光の60〜70%近くまで加速するシンクロトロン(加速器)をはじめとした巨大かつ繊細な装置を複数組み合わせて行う。そのため、そうした装置を使いこなせる熟練した運転技術に支えられているといっても過言ではない。加えて、医師や診療放射線技師、看護師をはじめとした多くのスタッフの総合力が不可欠だ。同施設では、センター長の荻野医師をリーダーとして治療に取り組み、高品質で安全性の高い医療の提供に日々努めている。また、全国19施設が加入する陽子線治療施設連絡協議会の事務局を担っており、国内の陽子線治療をけん引している。
ストレスフリーな
がん治療を提供
「苦痛」のイメージがある従来のがん治療とは違って、普段通りの生活を送りながら続けられる陽子線治療だが、平均して3〜4週間程度治療を継続する必要がある。同施設では、この期間をできるだけリラックスして、がん治療のみならず健康回復・増進を目指してほしいとの思いから、「リゾート滞在型」の治療を推奨している。患者と家族専用のホテルとして『HOTELフリージア』を施設横に設置。さながらリゾートホテルのような雰囲気のホテル内で、指宿名物の砂むし風呂や露天風呂を楽しめる。
治療のためにセンターに通うのは実質1日1時間程度で、それ以外は自由時間。楽しみはホテルの温泉だけでなく、近隣にあるゴルフ場で汗を流したり、鹿児島(錦江湾)で釣りを満喫したり、観光地巡りを楽しんだり。さまざまな過ごし方があるという。まさにこれまでのイメージを覆すような、「ストレスフリー」な治療施設といえるだろう。
熊本県内にも3カ所
相談窓口を用意
同施設で治療を受けるには、かかりつけの医療機関からの紹介が必須。事前に電話などで問い合わせたうえで、主治医からの紹介状などをもとに同施設でセカンドオピニオンを受診する流れだ。
2023年10月には、熊本桜町バスターミナルのそばに治療相談ができる『オフィス熊本』が移転オープン。医師とビデオ通話を用いた相談やセカンドオピニオンの受診が可能だ。そのほか、県内には八代市と天草市にも相談窓口があるので、治療に関心がある方は問い合わせてみてほしい。
0120-804-881