CASE11 慢性腎臓病(CKD)
今や成人の8人に1人は「慢性腎臓病(CKD)」であり、透析患者も増えている。「新たな国民病」と考えられているCKDだが、自覚症状がほとんどない。その予防や治療法について、教えてもらった。
新たな透析患者は
毎年3万人以上
腎臓とは、背中側の腰の上に左右1個ずつある、握りこぶし大ほどの臓器だ。体内の水分やミネラルバランスを一定に保ち、老廃物を尿中に捨て、さらに様々な健康を保つホルモンを出す。この腎臓の機能が低下すると体の健康なバランスが保てなくなる。さらに進行すると尿毒症になり、体中に毒素が回ってしまう。腎移植以外で最も一般的に行われている治療方法が「透析療法」(血液透析と腹膜透析)だ。
『熊本中央病院』の腎臓内科では、検尿異常のみで自覚症状のない慢性腎臓病(CKD)の初期段階から、腎機能が低下して透析導入が必要な段階、透析患者さんの合併症治療まで、慢性腎臓病に対して幅広く対応。CKDを発症する原因は様々だが、自覚症状がほとんどなく、腎炎だけなく糖尿病や高血圧などの生活習慣病があげられる。また高齢による腎機能低下も増えている。日本のCKD患者数は約1330万人(※①日本腎臓学会「CKD診療ガイド2012」)で成人の8人に1人はCKDとされ、「新たな国民病」といわれる。
腎臓病イコール透析ではないが、2021年末現在の透析患者総数は34万9700人(日本透析医学会「わが国の慢性透析療法の現況」)で、新たに透析を始める人は毎年3万人以上。つまり、国民の400人に1人、高齢者だと100人に1人が透析をしている状態で、県内でも4千数百人の透析患者がいる。
先回りした
予防が不可欠
透析患者の平均年齢は69・67歳(前年比 0・27歳増) 。 特に70歳を超えれば、3割は腎臓に疾患が発生してもおかしくないという。
ちなみに厚生労働省が2023年7月に発表した「2022年の平均寿命」によると、男性が81・05歳 、女性が87・09歳。野村先生は「明治時代の平均寿命は40代、昭和21年には60歳くらいでしたが、戦後で一気に80歳くらいまで延びました。しかし、腎臓の機能はその進化に追い付いていないのです。長生きして腎臓に疾患が出るのは予測できるので、できるだけCKDにならないよう先回りして予防しましょう」と語る。
腎臓病の新薬も発見
前述の通り、初期段階の腎臓病は、ほぼ無症状だ。だからこそ、特に高血圧や糖尿病の人は定期検診を受けてほしい。「血液検査・尿検査などで異常が出たら、すぐに受診することをお勧めします」と野村先生。左図のように、血清クレアチニン値と年齢によって腎臓の働きを示すGFR(糸球体ろ過量)が推算でき、その数値によって腎臓病の重症度が分類される。
図3の「CKD重症度ステージ」が1〜2では、自覚症状はまだ出ない。しかし症状がないから大丈夫とは限らないのだ。今では薬物療法・食事療法・生活改善を正しく行えば、CKDの進行を遅らせ、腎機能を維持して健康寿命を延ばすことも可能となってきた。
昔は腎臓の疾患を止める方法はなかったが、2000年に血圧の薬ARBが腎臓病にも効果があることがわかった。さらに2018年頃、糖尿病の薬であるSGLT2阻害薬が腎臓にプラスであると判明。CKDに対する効果が期待できる薬が色々とわかってきたが、それらはすべて〝腎臓をちょっと休ませてあげる薬〞だ。重症度ステージが高くなってから腎臓を休めると、逆効果になってしまう。
ステージ3〜4であれば投薬を行い悪化するスピードを止められるが、ステージ5になると難しい。しかし、すぐに透析かといえばそうとは限らず、患者の状況による。慢性腎臓病の治療は原因となる疾患によって異なり、慢性糸球体腎炎の代表であるIgA腎症という疾患ならば 「扁桃腺摘出+ステロイドパルス」療法で7割以上の寛解が望める。糖尿病性腎臓病であれば糖尿病の治療が主だが、新規薬剤のお陰で以前に比べて腎機能は悪化しにくくなっている。また、多発性嚢胞腎(難病)など稀な病気もある。
腎機能は、一度低下させると元に戻すのは難しい。そのため、治療のスタートが早ければ早いほど、腎機能の低下をゆるやかにできる可能性が高くなる。若い頃にCKDと診断されてから30年以上、透析を続ける人もいるそうだ。野村先生は「原因を追及し、それに応じた治療を行い、一生透析のお世話にならないことが理想です。患者さんの原因疾患や現在の腎機能に応じて、最適化した薬物療法や生活指導を行います」と語る。今は健康であっても、定期健診を欠かさないようにしたい。
096-370-3111