CASE13 脳卒中
脳卒中には大きく分けて脳の血管が詰まる脳梗塞と、血管が破れる脳出血がある。熊本市中央区の『杉村病院』は、ストロークケアユニット(SCU)を新設し、専門的な脳卒中の診療体制を構築した。その取り組みを聞いた。
院内に救急救命士9人
24時間迅速な対応可能
以前は脳出血の方が比率は高かったが、最近は高齢化に伴い脳梗塞が増え、脳卒中全体の約7割を占めるようになった。脳梗塞には大きく分けて、脳の細かい血管が詰まる「ラクナ梗塞」と、大きめの血管が動脈硬化などで細くなって詰まる「アテローム血栓性脳梗塞」、心房細動や不整脈などのトラブルが生じて血栓ができ、それが脳に流れて詰まる「心原性脳塞栓症」の3パターンがある。原因は高血圧や糖尿病、加齢、遺伝的要因などさまざま。
脳梗塞の治療は点滴で血栓を溶かす方法や、専門の道具で血管に管を通し、血管を広げるカテーテルが中心だ。重症化した場合、頭蓋骨の一部を外す減圧術を行う場合がある。また、再発予防のための手術には、脳の動脈に頭皮の動脈をつなぐ脳血管バイパス術、首の動脈の厚くなった壁を除去する頚動脈内膜剥離術、首の動脈の狭い部位を広げる頚動脈ステント留置術などがある。同院では「ハイブリッド手術室」という、手術台と血管撮影装置を組み合わせた手術室を備えており、脳外科手術とカテーテル検査・治療を同時に行うことができる。複雑な脳血管の病気に対しても安全かつ確実な手術を行うことが可能という。点滴で治療をする場合、発症から60分以内に打つことが推奨されている。「当院では速やかに対応できており、世界的な目標やデータと比較しても遜色ない結果を出せています」と杉村理事長は胸を張る。
脳梗塞は脳の血管が詰まって血液が行き渡らないことで脳の組織が損傷され、片麻痺(まひ)などの運動障害や嚥下障害の後遺症が残ることがある。「後遺症を残さないためには、できるだけ早く対応することが鍵。一刻を争います。速やかに搬送されて治療するためにも、救急隊との連携は重要になります」。同院には救急救命士が9人おり、24時間迅速に対応できる体制を整えている。救急隊と勉強会を開いたことで、意思疎通がスムーズにできるようになったという。
今後はさらに病院間の連携も重要になってくる。救急告示病院の同院は二次救急を担っており、かかりつけ医の一次救急や、高度救命救急センターの三次救急から入院依頼も受けている。「二次救急で対応できる軽症や中等症の患者は積極的に引き受けます。三次救急でしか対応できない重篤な患者は搬送することがあります。病院の機能に応じた役割の分担をしていくことが求められます」。
リハビリテーションにも力を入れており、他の病院で治療が一段落した患者がリハビリのため紹介されて来ることもある。「脳梗塞は再発することがあります。再発するリスクが高い患者さんの場合、すぐに治療できる体制のある当院は安心感があるようです」と杉村理事長。
急性期から回復期まで
一貫した医療を提供
大きな特徴は、脳卒中専門の脳神経内科医と脳神経外科医が連携し、脳梗塞の超急性期から回復期まで一貫して対応できることだ。2023年4月、ストロークケアユニット(SCU)を新設し、急性期の脳卒中患者を手厚く診療する体制を整えた。SCUで診療を受けた患者は予後が良いという。
さらにリハビリテーションを行う回復期病棟は2棟あり、車の運転支援をするドライブシミュレーターなどを導入し、社会復帰を目指す。「リハビリをして、患者さんが自宅に帰って生活できるようにすることが大切です」と杉村理事長。大きな総合病院ではなく、血管に特化した特色を持つため、スタッフ間の風通しも良く、コンパクトに迅速に対応できるという。
日本の脳卒中死亡率は4位、重い介護が必要となる疾患としては1位、高齢者の医療費はがんに次ぐ2位で、深刻な社会問題となっている。高齢化に伴い、今後さらに増加するとみられる。「これらに対応していくためにも、医師や看護師たちの働き方改革を進め、今後はDX(デジタルトランスフォーメーション)も推進していきます。機械化できる部分は機械化してミスを減らし、みんなで恩恵が受けられる形にしたい」。既に先進地を視察し、どうDXを採り入れるか、検討しているという。
自らを「二刀流」と称する杉村理事長。第一線の現場で医療をする一方、経営者として経済界ともつながる。「新しいこともどんどん取り入れ、社会のニーズを先取りして応えていきたい」と柔軟な発想で患者や職員の幸せを追求しながら医療業界の将来を見据えている。
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