県の調べによると、むし歯がある1歳6カ月児の割合が熊本県は全国ワースト1位、3歳児はワースト3位だという。その状況を少しでも改善し、子どもの歯の健康を守るために立ち上がった有志の集まり「子どもとママの健口を育む会」に、子どもを「むし歯ゼロ」で育てるポイントを教えてもらった。
「ママ健」誕生の目的や活動とは
「子どもとママの健口(けんこう)を育む会」、通称「ママ健」が誕生したのは2011年。長年低迷してきた熊本県における子どものむし歯有病率を改善し、「20歳になったときにむし歯ゼロで健康な歯並び」を達成できるように、さまざまな活動を通してサポートを行っている。立ち上げメンバーの一人であり、現在会長を務める西村幸郎先生(けやき通り歯科・矯正歯科院長/日本フィンランドむし歯予防研究会臨床理事)によると、むし歯予防の先進国であるスウェーデンの高齢者(80歳以上)の残存歯数が26本なのに対して、日本は12本と半分以下だそう。「残っている本数が多ければ多いほど踏ん張りがきくため転倒予防につながります。また、しっかり噛めるため脳への血流を増やして認知症予防にもなり、健康寿命が長くなるというデータも報告されています。理想は80歳で残存歯数20本そこを目指すには赤ちゃんの時から正しいケアが必要ですし、ママたちが正しい知識を得ることが不可欠だと感じ、子どもとママに焦点を当てた有志の会を結成しました」と振り返る。
結成後すぐに、「日本一赤ちゃんが生まれる病院」として知られる『福田病院』と連携し、同院のマタニティ教室「えがお学級」で歯の健康教室がスタート。2015年からは『慈恵病院』とも連携し(現在は休止中)、賛同したボランティア講師は歯科医師15名を数えるまでになった。これまでの開催は延べ300回・参加者は1万人を超える。10年以上にわたり「歯周病による早産予防」や「子どものむし歯予防」の推進を行ってきた実績が認められ、2022年には「くまもと歯の健康文化賞」を受賞している。
「子どもが初めて歯科医院を訪れるのは3歳くらいが多いですが、実はむし歯予防で重要な時期は3歳までです。妊婦への啓蒙活動を通して〝マイナス1歳からのむし歯予防〞の重要性を理解してもらうことで、むし歯ゼロ&健全な歯列を目指したい」と、初代会長である村上慶先生。今回、両親教室でよく聞かれるという質問に答えてもらった。
教えて、歯医者さん! 妊娠中の治療は?
子どもを「虫歯ゼロ」で育てるには! ?
妊娠中でも、歯科治療はできますか?
安定期なら大丈夫です。診療の際に使うレントゲンによる被曝や麻酔の影響を心配される方がいらっしゃると思いますが、私たちが暮らす日常生活の中にも微弱の放射線はたくさんあって、日本で1年間日常生活を過ごすだけで浴びる放射線の総量は平均2・1ミリシーボルトといわれています。一方、歯科医で使うレントゲン撮影の放射線量はデジタル化が進んでいる効果もあり0・002〜0・01ミリシーボルトくらい(図1)。これは、医科の中でもっとも小さい数字になりますし、日常生活で浴びる放射線量よりもずっと少ないんですよ。麻酔や痛み止めも比較的安全なものがあるので問題ありません。
逆に、妊娠中は女性ホルモンの値が以上に高くなり、そのホルモンを好物とする歯周病菌が増殖する傾向にあります。歯周病になると早産・低体重児のリスクが7倍にもなるといわれていますので(図2)、妊娠がわかったら安定期に必ず歯科検診を受けるようにしましょう。
子どもを「むし歯ゼロ」に育てるために
気をつけることは?
むし歯は、ミュータンスレンサ球菌に代表されるむし歯菌への感染によって引き起こされる病気です。そのため、周りにいる人から赤ちゃんに「むし歯菌が移る機会を減らす」ことが大切です。まずは育児に携わる親や祖父母、きょうだいが口内のクリーニングや未処置の歯の治療、歯石取りなどをしっかり行い、感染元のむし歯菌を減らして赤ちゃんを迎えるようにしましょう。次に、赤ちゃん専用の食器を用意し、スプーンやお箸の共有は避けるようにしましょう。また、スキンシップは大切ですが、過度になりすぎないように気を付けてください。
よく「離乳食を冷ますときに、フーフー息を吹きかけるのもダメですか?」と聞かれますが、神経質になりすぎる必要はありません。むし歯菌が歯に感染を引き起こすには、それ相応の数が必要です。「むし歯菌をゼロにしないと!」と肩肘張らず、「ゼロに近い状態に保つ」くらいの感覚で、育児を楽しみながらお子さんと向き合ってください。
むし歯になりやすい子と
なりにくい子がいるのは本当?
本当です。周りに「歯磨きをあまりしなくてもむし歯にならない」という方がいらっしゃると思いますが、それは「虫歯菌に感染しやすい時期」を上手に乗り切り、口腔内に定着するむし歯菌の増加を防ぐことに成功した方です。
注意が必要な時期は「1歳半から3歳まで」。この間は乳歯が次々と生えてくるため歯列が不安定な状態となり、ミュータンスレンサ球菌も歯面に定着しやすくなりますので周りの大人が念入りにオーラルケアを施すことを心がけてください。そうすればむし歯菌の定着を防ぐことができ、将来的なむし歯リスクを急激に低下させることができます。
子どもを「虫歯ゼロ」で育てるには!?
チョコレートなどの甘い物をあげると、
むし歯になりやすい?
チョコレートをはじめとする甘いおやつは砂糖を大量に使っていますので、できれば3歳くらいまで控えた方がいいです。また、意外と盲点なのが野菜ジュースや乳酸菌飲料です。「お子さんの健康のために」と思って与えがちですが、乳幼児にとって多すぎる量の砂糖が含まれているので注意してください。もう一つ、むし歯予防の観点から言うと、砂糖の「量」だけでなく、「あげるタイミング」も重要です。食べたり飲んだりすると口の中は酸性になり、酸によって歯の表面のエナメル質が少しずつ溶け出してしまいます。「溶け出す」と聞くと「え?大丈夫?」と心配になるかもしれませんが、溶けた成分を唾液が再石灰化して修復してくれます。ですから、食後に口腔内が酸性に傾いたら、次の飲食までしっかり時間を空けて唾液が再石灰化してくれるのを待つことが大切です。ごく初期のむし歯ならこの再石灰化で修復できます。実は唾液ってすごいのです! 食事は規則正しく取る、しっかり噛む、また唾液を分泌させるために食事中はなるべく水分を摂らないことも一緒に心がけましょう。
歯並びが良い子に育てることはできますか?
よく「歯並びの悪さは遺伝しますか?」と聞かれます。歯や顎の大きさは遺伝しますが、歯並び自体は日々の生活習慣や習癖によって形成されるため遺伝と関係ありません。美しい歯列にとって大切なのは、口の周りの骨や筋肉をしっかり発育させることです。例えば母乳育児。母乳はしっかり吸い付かないと出てこないため舌や口周りの筋肉の動きが自然と鍛えられ、顎の成長や気道の発達が促されます。ミルクと混合にする場合は、あえて出にくい哺乳瓶を選ぶようにしましょう。
また、離乳食の完了期になると、「食べやすくカットして与えない」ことが大切です。最初は嫌がるかもしれませんが、自分の歯で噛み切らせることで顎と筋肉が鍛えられ、将来的に美しい歯並びにつながっていきますよ。「すでに離乳食の時期を過ぎてしまった……」、「顎が小さくて歯並びが気になる」という方や、「いつも口をポカンと開けている(口呼吸をしている)」というお子さんは、口の周りの筋肉を鍛えて顎の骨を広げるMFI(口腔筋機能療法)もあります。口周りの筋肉が正しく働くようになれば、歯が正常な位置に並ぶ可能性があります。また、口呼吸から鼻呼吸に切り替えることができると、歯並びはもちろんアレルギー性鼻炎の改善や風邪予防にも有効です。一度専門医に相談してみて。
初めての歯科検診は何歳くらいが目安?
生後半年くらいで歯が生え始めますので、最初の歯が見えたら歯科を訪れていただきたいです。当会の会員クリニックは皆さん小児歯科に力を入れています。 キッズルームがある歯科医院などもあります。子どもさんを安心して連れて行けるかかりつけ医を早くから見つけておくと、出産後も安心ですよ。