“交感神経過緊張症候群”に関する一考察
“地域のかかりつけ病院”としての長年の実績から、独自の臨床研究をベースに“交感神経過緊張症候群”を提唱する『九州記念病院』岡山洋二理事長。整形外科医として自律神経システムと疾患の関係解明に取り組む岡山理事長が示す、新しい疾患概念“交感神経過緊張症候群”の研究とは。
仮説として推測される
〝自律神経賦活信号系〟
生命維持のために、全身の複雑な組織の相互の恒常性の維持に働いているシステムが自律神経系(交感神経系と副交感神経系)である事は、よく知られている。特に、交感神経系は全身の組織を栄養する、限り有る血液の供給を担うポンプの役目を行う心臓の働きと動脈の径を調節する事で、末梢の血流を過不足無い様に常時コントロールをしている。
その自律神経系において、岡山理事長が〝交感神経過緊張症候群〞を提唱するきっかけが約10年前にあった。「圧痛部位の皮下に局麻剤を注入するトリガー・ポイント・ブロックを実施中に、末梢血流が増加して疼痛が改善する事を発見した事が、今回の研究の発端です。自律神経系の上位中枢が視床下部の自律神経核群であり、この司令塔からの信号により実行部隊である交感神経を適度な緊張状態に保つシステムが形成されている事は必然です。このシステムの実在性を約10年間に渡り独自に推測してきましたが、皮膚と皮膚深部や内臓に分布している感覚神経が常時モニタリングしている自律神経の支配領域の組織の状態の情報(電気信号)が脊髄後索に達して脊髄視床下部路を経由して自律神経核群に送られて、身体組織を最適な状態に保つためにアレンジされた賦活信号として自律神経を働かせるフィードバック機能が構築されているものと推測しています。(仮称:自律神経賦活信号系)
これまでの考えの総括については、令和元年5月1日(即位の日)発刊の熊本日日新聞朝刊の24面に全面広告として掲載しました。原始時代の狩りや闘争や逃走時に生じる極限のストレスに於いて、情動の中枢である扁桃体が働き、視床下部の自律神経核群(主に交感神経に働く神経核)に電気信号を送り、交感神経の働き(α1作用により全ての組織を栄養する細動脈を収縮させて血流を低下させる一方、β2作用で心筋を含めて全身の筋肉組織を栄養する細動脈を拡張させて血流を増加させ、更にβ1作用にて心筋の働き(ポンプ作用)を高める)を極限に高めて目的達成の為に身体能力を最大限に発揮させようとする(全身の力をみなぎらせる)機能が備わっています」。
ストレスとの深い関連と
疼痛の悪循環を推察
また岡山理事長は、現代がストレス社会であることも自身が提唱する〝交感神経過緊張症候群〞に関係していると話す。「現在はストレス過剰の時代であり、様々なストレスにて扁桃体が自律神経核群を介して交感神経を過剰に働かせる事で末梢の細動脈が過剰に収縮して組織の慢性的な血流障害による栄養不良状態(特に阻血痛)の症状が生じる病態の総称として交感神経過緊張症候群(仮称)を提唱しています。慢性のストレス状態に於いては、交感神経が過緊張状態となり、α1作用の増加にて末梢の細動脈が過剰収縮して血流が低下していますが、果たしてβ2作用も同時に生じているのかと
いう疑問が残ります。
身体能力(筋肉の働き)を高めようと意図する際(例えばスポーツ前のウォーミング・アップ等)には合目的にβ2作用が働きますが、筋肉を使う動作時以外の安静時には働く必要が無い様に考えます。尚、筋肉痛は筋肉組織の血流低下による栄養不足を訴える警報(阻血時に血管内皮細胞で造られる最大の発痛物質あるブラディキニンによる)ですが、安静を促す目的の他に筋肉組織の血流を増加させる作用(β2)がどの程度生じるかは身体の状況次第と考えます。いずれにしても、慢性の筋肉痛が生じている事は事実であり、この疼痛が新たなストレスとなり更に交感神経を過緊張状態に陥らせて疼痛を増悪させている悪循環に陥っている事が推測されます」。
鍼灸のほか東洋医学でも
その作用機序説明が可能
「ところで、筋肉組織の被膜である筋膜には自由神経終末や被包性神経終末(ルフィ二小体やパチニ小体)が存在して筋肉組織の活動をモニターしていますが、これがβ2作用の情報源になっているものと推測しています。そこで、鍼灸療法やマッサージ等に於ける体外からの筋膜への刺激により、これらの感覚神経を介して交感神経のβ2作用を惹起して筋肉組織の血流を増加させる事で、阻血痛を改善するのではないかと推測しています」。
これにより、整骨院等で実施している東洋医学の治療並びに民間療法の大半の作用機序が説明できるのではないかと、岡山理事長は考えている。「交通事故で追突事故に遭遇する際の頸部痛や頭痛や嘔気や目眩や耳鳴を、鞭打ち症という俗名で呼ばれておりますが、私は外傷性頸部症候群という正式名称で病名を付けています。この病態が事故直後は無く数日をかけて徐々に生じることで、精神的な症状(気のせい?)という一部の見解がありますが、外傷の程度は軽度でも事故に遭遇したという強いショックが強いストレスとなり、交感神経の過緊張状態が続く事により徐々に各組織の阻血状態により引き起こされる症状と考えています。感受性が強い人は悪循環が生じる恐れがあり、早期の適切な治療が必要となります。ところで、頸腰部部の特定部位の皮下深部のトリガーの場合に、交感神経のα1作用のブロックによる末梢の細動脈の拡張による血流改善と共にβ2作用を惹起する筋膜に分布している感覚神経もブロックする事で、筋肉組織の血流を阻害している恐れが生じますが、たとえβ2作用をブロックして筋肉組織の血流の増加を阻害するとしても、α1作用のブロックにより末梢血流が増加して筋肉組織の阻血状態が改善する方に優位に働いている事が示唆されます。余談ですが、鞭打ちの場合は、自賠責の担当者が整骨院を勧める事例を時々経験していますが、臨床医として残念ではありますが、納得できます」。
眼疾患等の改善に繋がる
頸部トリガーの可能性
実は頸部痛等へのアプローチが眼疾患の改善に繋がる可能性も、岡山理事長は指摘している。「これまでに、頸部痛等に対して頸部の特定部位のトリガー・ポイント・ブロックを行っていますが、眼疾患(白内障、緑内障、葡萄膜炎、加齢網膜剥離、加齢黄斑変性等)を煩っている人の目の症状の推移に注目して来ましたが、いずれも改善傾向を認めています。これは、鞭打ち症で述べました様に、何らかの原因で眼球組織の血流が低下して阻血状態に陥っている為に生じている機能障害と考えますと、頸部のトリガーにて眼球組織の血流が増加して栄養不良の状態が改善して機能障害が改善するとの推測は理に叶った考えと思います。
この例と同様に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)である間質性肺炎や肺気腫等の場合で、頸部のトリガーで在宅酸素療法を終了出来た例を何度か経験しています。なお、気管支喘息を合併している場合は、β2作用(気管支拡張作用)をブロックする頸部トリガーでは、注射前にβ2刺激剤の吸入が必須で喘息発作を回避することが可能です。COPDでは、SPO2をモニターして慎重に実施していますが、注射直後からSPO2の軽度低下を認める事から気管支の径を調節している輪状の平滑筋を弛緩させるβ2作用をブロックする事で気管支を軽度収縮させている可能性が疑われます。COPDにβ2刺激剤の併用が行われている事を考えますと、合目的に呼吸障害を改善しようとβ2作用が働いて気道を常に拡張状態に維持しているという事の様です。頸部トリガー時に呼吸不全を呈する喘息発作時の様な気管支狭窄状態を認める例はこれまでの処有りませんので、実施前にSPO2が90以上を確認して注意深く実施す事が必要です。
ところで、間質性膀胱炎という原因不明の耐え難い激しい疼痛を伴う難治性の疾患がありますが、間質性肺炎と同様に腰部の特定部位のトリガーが効果がある可能性を考えますが、臨床経験がありません。今回は過去に熊日新聞の全面広告に掲載された内容を補足する形で持論を述べました。今後も、臨床経験等で新しい知見が得られましたら、ご報告します」。
096-383-2121