『八代北部地域医療センター』にある、県内唯一の「鼠径(そけい)ヘルニアセンター」。ヘルニアは中年男性に多いイメージだが、男女問わず乳幼児から高齢者までかかるのが〝そけいヘルニア〟だ。専門医によるヘルニア治療の最前線とは?
下腹の一部が膨らむと
そけい部ヘルニアかも
「ヘルニア」とは、臓器などが本来あるべき場所から他の場所へ突き出してしまう状態で、その中でも脚の付け根に近いお腹(そけい部)の壁穴から臓器がでっぱる病気を「そけい部ヘルニア」と呼ぶ。
症状としては、お腹に力を入れたり立ったりしているときに、そけい部が膨らんで見えることが多い。膨らみの大きさはビー玉からハンドボール程度で、明らかにボッコリと膨らむ場合や、かすかに膨らむ程度まで様々である。男性の場合、陰嚢(いんのう)まで膨らむこともある。寝たり、手で押したりすると引っ込むこともある。そけい部の痛みやつっぱり感で気づく場合もあり、図1のようにヘルニアが出る穴の違いで3つの型に分類される。
男性の4人に1人
小児はクラスに1〜2人
「そけい部ヘルニア」は国内で年間15万人が手術を受けていて、(厚生労働省)外科の手術の中では最も多い病気だ。医学の分野では15歳を境に小児と成人に分けることが一般的だが、小児そけい部ヘルニアは性別に関係なく発症し、成人では男性に多いものの女性の手術件数も全体の15%を占め、女性も気を付けておくべき病気だ。乳児の一部以外は手術をせずに治ることはないとされる。
「小児のそけいヘルニアの発生頻度は20〜50人に1人で、クラスに1〜2人はいる計算です。成人男性の生涯発生率は4人に1人ともいわれています。それだけ身近な疾患だからこそ、当院では経験豊富な外科医・小児外科医が診断して、その患者さんに合った適切な治療法を選択するよう心がけています」と吉田院長。
赤ちゃんと女性の
ヘルニアは早めの受診を
ヘルニアで出た臓器が戻らなくなり血流障害や腸閉塞を起こす「嵌頓(かんとん)」になると、ヘルニアの痛みや腹痛、吐き気、お腹の張り、発熱などの症状が出て、緊急手術になることもある。赤ちゃんや高齢者、女性の一部のタイプは嵌頓のリスクがやや高いとされる。「健診や産科・小児科などでそけいヘルニアの疑いを指摘された場合は早めに小児外科の受診をお勧めします。また、成人女性では、膨らみは小さくても嵌頓のリスクが高い大腿ヘルニアの割合が高いので、気になるときはためらわず外科を受診してください」と吉田院長は呼びかける。同院には女性ヘルニア外来もある。
そけい部へルニアは症状と診察のみで診断して治療方針を決める施設が多い。CT検査を実施する施設もあるが、同院ではX線被ばくがない超音波検査を外科医自ら行って診断する。吉田院長は「精巣や卵巣への被ばくを避けるため、当院では超音波検査を行っています。そけい部ヘルニアと似た症状の疾患の鑑別や、反対側のヘルニアの確認などに有用で、治療方針の決定に役立てています」と語る。
子どもの手術は切開法
と腹腔鏡下手術の二つ
小児そけい部ヘルニアは、そけい部の壁穴から、お腹の臓器を包む袋が外側に伸び出したままになっているのが原因で、その袋の根元を糸でしばって閉じる手術を行う。従来の方法では、そけい部の皮膚を1〜2㎝切開して、直接目で見ながらしばるが、腹腔鏡下手術では、内視鏡でお腹の中からヘルニアの出口を見て袋をしばる。同院では小児そけい部ヘルニアの腹腔鏡下手術である「LPEC法」を採用している。図のようにへそ内に5㎜のカメラと左下腹部に2㎜の手術具を入れる穴、そして糸を通す針穴だけ。「片側にヘルニアがある小児の約1割は反対側にもヘルニアがあります。その場合、同じ創で同時に手術できるのもLPEC法のメリットで手術は30分程度です。ただし、従来の方法でも小児外科医は小さな傷で手術をしますので、まずは小児外科医に相談を」と院長。
おとなは手術法も麻
酔法も選択肢が多い
成人も、そけい部切開法と腹腔鏡下手術があるが、多くの場合、壁穴を塞いだり、そけい部の壁全体を補強したりする手術を行う。その方法として、壁穴の周りの組織を縫い合わせる「組織縫合法」と網状の人工シートを入れて補強する「メッシュ法」があるが、縫合法やメッシュの種類、メッシュを入れる場所などは様々。成人の腹腔鏡下ヘルニア修復術もその方法や使用するメッシュに種類がある。
同院では、患者さんの状態に合わせて手術法やメッシュの種類、麻酔法を選択する。 「当院の手術は、そけい部切開法の場合、そけい部の局所麻酔で手術を行うのが特徴で、体に負担が少なく、高齢の方や全身麻酔に不安がある方でも手術が可能です。術中はうとうとした状態で音楽を聴きながら手術を受けて頂きます。腹腔鏡下手術も行っており、傷が小さく術後の創部痛が比較的少ないため、仕事や日常生活への復帰が早いのがメリットです」と吉田院長。
ヘルニアの大きさや年齢、持病、仕事内容などを考慮し、患者に最適な過不足ない手術を選んでくれるのも専門病院の強み。手術は、経験豊かな小児外科医・外科医が担当している。基本的には日帰り、もしくは手術した翌朝の退院で、日常生活への復帰も早い。そけい部ヘルニアの原因として、前立腺の手術後になりやすい。喫煙もよくない。しかしまだ分かっていないことも多い。誰もが発症する恐れのある、そけい部ヘルニア。異常がないか注意を払いたい。
0965-53-5111