CASE2 未破裂脳動脈瘤
脳動脈瘤とは脳の血管が部分的に円筒状や袋状に膨らんだ瘤(こぶ)のこと。破裂していない脳の動脈瘤を未破裂脳動脈瘤というが、脳の底の大きな血管、特に脳血管が分かれる分岐点にできる場合が多く、破裂すると脳障害が残ったり死に至ったりするケースもある。
検査方法の進歩、特にМRI検査などの血管撮影により、脳血管の状態がはっきり分かるようになった。頭痛やめまいなどの症状や予防医学の観点から脳ドックを受ける方が増えているため、小さな脳動脈瘤まで発見される頻度が
増えている。しかし、すべての脳動脈瘤が破裂につながるわけではなく、禁煙や節酒、高血圧の治療といった破裂のリスクを減らす対策により、経過観察で済むケースも多い。専門医とよく相談しながら、最適な治療方針を決めることが大切である。
患者への負担を軽減
血管内治療を第一に選択
脳動脈瘤が破裂すると、くも膜下出血が生じる。その結果、重度の脳障害が残る可能性や死亡リスクが増えるため、専門医による的確な治療が求められる。未破裂脳動脈瘤の治療には血管内治療(コイル塞栓術)と開頭手術(クリッピング術)がある。
コイル塞栓術は、手首や脚の付け根の動脈を利用して、マイクロカテーテルという細かい管を脳動脈瘤まで通す治療法。柔らかくて細いコイルで脳動脈瘤の内部を埋めることで、血液が瘤内部に流れ込むことを防ぎ、破裂のリスクを低減する。一般的にカテーテルは脚から導入することが多いが、「済生会熊本病院」では身体への負担がより少ない手首からの挿入を推奨している。この治療法だと入院期間も短くなり、通常は2泊3日程度で退院可能だ。
クリッピング術は、頭蓋骨の一部を切開して脳の深部にアクセスし、動脈瘤の根元をチタン製のクリップで挟む治療法。これにより動脈瘤内の血流を遮断し、破裂の予防を目指す。入院は9日間程度必要となるが、根治治療である点が最大の利点といえる。2023年5月からはナビゲーションシステムを導入し、動脈瘤の位置をより正確に確認できるようになった。加治先生は「手術は無剃毛で実施しています。また小さな切開・開頭をすることで、患者さんの負担をより軽減しています」と語る。
「どちらの治療法にも利点と欠点があります。患者さんの年齢や健康状態、動脈瘤の位置やサイズ、形状などを考慮して、最も適した治療法を選択することが大切です。いずれの方法でも治療できる場合は、患者さんの負担を軽減する目的で、コイル塞栓術を優先的に行っています」と加治先生。実際、2022年の治療方法の選択率はコイル塞栓術が62%を占め、クリッピング術は38%であり、多くのケースでコイル塞栓術による治療が適応となっている。
さらに近年、フローダイバーターという新たな血管内治療が注目されている。従来、大型の脳動脈瘤には脳血管のバイパス手術を含む極めて難しい開頭術が必要だったが、そのような脳動脈瘤でもカテーテル治療が可能となる画期的な治療法だ。「2023年7月からはフローダイバーター治療の専門医が加わり、この治療を積極的に行えるようになりました」と加治先生は話す。
すべての手術は先進機器と各種の術中モニタリングなどを駆使して安全・確実に行われる。入院診療においても、患者さんの治療過程を詳しくスケジュール化したクリニカルパスが採用されており、診療の質、安全性、効率性の向上に努めている。
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