CASE7 肺がん・縦隔腫瘍
全がん死の中で約2割を占める肺がん。ロボット支援手術など導入されてきたが、アジアでは患者の負担が少ない〝単孔(たんこう)式手術〞が主流だという。
県内ではまだ少ない、『熊本赤十字病院』で行われている〝単孔式手術〞とは?
切るのは一カ所のみで
身体への負担が少ない
『熊本赤十字病院』が特に力を入れているのが、救急医療と肺がん診療。呼吸器内科の患者は、『救命救急センター』を経由しての緊急入院が約5割を占める。肺がんは全国でもいまだに増加傾向にあり、同院でもアメリカで開発された内視鏡手術支援ロボット〝ダヴィンチ〞を導入。医師が操作するロボットアームは人間の手首と違い、狭いところで人間の関節以上に稼動する。高倍率の3D画像で精密な手術ができるのは、ロボットの大きな利点だ。
しかし今のニューウェーブは〝単孔式手術〞だという。「単孔」とは「単独の穴」という意味。わきを3㎝程度、1カ所のみ切開し、その穴から胸腔鏡手術をすべて行う。気胸は2㎝程度の傷で済む。〝単孔式〞の発表後、0・5〜4・5㎝の穴を3〜4カ所空ける従来型を〝多孔式手術〞と呼ぶ。手術中はモニターの画面をスタッフが共有しているが、「野球で例えるなら、本塁にカメラがあるとすれば、1塁と3塁から鉗子(かんし)を入れ、2塁を狙って手術します。執刀医の両手に加え、助手も必要なので、複数の穴を空ける必要がありました」と森先生。しかし多孔式はテコの原理で、どうしても器具で肋間神経を圧迫し、患者の痛みにつながってしまうのだ。
高齢者もあきらめず
手術できる可能性が
開胸手術は胸を30㎝ほど切り、医師の触覚を100%使って行っていた。しかし手術後もずっと痛みが続く「開胸後疼痛症候群」もある。なるべく小さい傷で、という患者に寄り添った考えが根底にあるのだ。森先生は「肺がんの常識が変わりつつあります。当院の単孔式手術は年間30件ほどですが、上海では医師1人につき平均5件、多いと1日7件施術すると聞いています」。
若い人なら手術に耐えられても、持病のある高齢者などの場合、身体への負担が大きくて手術をあきらめるケースもある。しかし胸腔鏡手術は負担が少なく、手術の翌日に歩ける人もいるほどだ。同院では痛みがより少ない単孔式手術か、より精密なロボット手術かと、患者の選択肢が増えた。
治療にあたっては外科手術、放射線治療、殺細胞性抗がん剤による化学療法、分子標的薬による化学療法、免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法、またはこれらを組み合わせて行う。患者の年齢や状態(基礎疾患や合併症、心・肺機能、栄養状態など)、組織型、進行度(病期)なども異なる。「ご本人やご家族と相談しながら、その方にとって最適の治療法を選択していきます。短時間で済み、傷も少ない単孔式なら『手術してみよう』と前向きに考えていただけるご高齢の方もいらっしゃるのではないでしょうか」と森先生。緩和・支持療法もあるので、それらを組み合わせた肺がん診療を実践している。
096-384-2111