CASE3 がん(薬物療法)
がんの治療法に欠かせない薬物療法。医療の発展で選択肢が増えるなか注目されているのが、遺伝子レベルの検査による「がんゲノム医療」だ。
そこで、薬物療法の種類や「がんゲノム医療」について話を聞いた。
がん治療の大きな柱として手術、放射線治療、薬物療法がある。中でもがんの薬物療法とは、がん細胞の増殖や転移を抑えるための薬を内服または注射(点滴)によって体の中に入れる治療法のこと。これによってがんを治したり、進行を抑えたり、あるいは症状を和らげたりすることが期待できる。
がん治療の薬物には大きく分けて4種類あり、従来からいわゆる「抗がん剤」として認識されているのが、がん細胞の増殖を妨げる「殺細胞性抗がん剤」。次に特定の蛋白質(分子)に結合してその働きを妨げる「分子標的治療薬」。そして最近、最も注目を集めているのが「免疫チェックポイント阻害薬」で、多くのがんでめざましい治療成績が報告されてきている。京都大学・本庶佑博士のノーベル生理学・医学賞受賞で脚光を浴びたが、これは自分自身がもつ免疫機能(リンパ球)を刺激して、がん細胞を攻撃する力を再び呼び覚ます効果がある。また、乳がんや前立腺がんなど特定のがんに対しては、性ホルモンの作用を抑える薬が用いられる(ホルモン療法)。
「医療機関や製薬企業による研究開発と臨床試験の積み重ねによって、がん薬物療法の選択肢が広がり、こうした薬剤の組み合わせによる治療も発展してきています。副作用を抑える薬も進歩していて、最近の薬物治療のほとんどは入院せずに外来で治療を受けることができます。当院では患者さんの増加に対応すべく、治療用のベッド数を今年から大幅に増やしました。専門特化してきた治療に対応すべく、がん薬物療法の専門医・看護師・薬剤師をはじめ、がんに特化した管理栄養士や医療ソーシャルワーカー、リハビリなど複数の専門スタッフが一つの場所でがん診療を提供する体制も整備されています」と小田先生は語る。
熊本県内で2施設のみ
がんゲノム医療とは
こうした薬剤の進歩に加えて、個々のがん患者さんに対応する治療法として注目されている先端医療が、「がんゲノム医療」だ。『済生会熊本病院』は、2021年4月に熊本県内でまだ2施設しかない「がんゲノム医療連携病院」に指定され、この検査を保険適用で受けることができるようになった。ちなみにゲノムとは、遺伝子を含むヒトの遺伝情報全体のこと。遺伝子からはいろいろな働きをもつ蛋白質が作られる。がんの原因となる主な遺伝子の異常を調べあげることで、それぞれの患者さんにあわせた効果の高い治療薬を選択することができる。
「がんは、ひとつの細胞の中で遺伝子の異常が何度も積み重なった結果、おこる病気です。細胞増殖をコントロールしている蛋白質のうち、アクセルの働きが強すぎたり、ブレーキが壊れたりするような遺伝子の異常がおこると、がん細胞が無限に増え続けるようになります。その壊れ方は、同じがんでも人によってかなり違います。これらを調べ尽くして原因を突き止めていくのです」(小田先生)。この「がんゲノムパネル検査」は、通常の抗がん剤治療が終了した患者さんが受けることができる検査だが、令和元年から始まったばかりで、実はまだ認知度が高くない。これまでに受けた抗がん剤治療が効かなかった場合でも、自分だけに効く薬がまだ見つかる可能性があること、研究開発中の新薬に巡り合える可能性があることを知っておきたい。
096-351-8000