CASE04 ロボット(ダヴィンチ)による手術
近年、医療用ロボットが目覚ましい勢いで進化している。それに伴い、手術支援ロボット「daVinch(ダヴィンチ)」を導入する医療機関が増えているという。
ダヴィンチを使った胃がん・大腸がん手術を実施し、さらにスリーブ状胃切除術を用いた肥満治療への取り組みを始めた『熊本医療センター』を取材した。
正確で安全なロボット手術
全国へ広がる「ダヴィンチ」
ダヴィンチはこれまでの鏡視下手術にロボットの機能を組み合わせた医療用機器。1900年に米国で開発された後、2009年に日本で薬事承認を受け、2024年1月には全国の医療機関で700台以上が導入されている。ロボット本体装着された3本のアームと、1台のカメラによって手術を行う。医師は、画面に映し出される立体的な体内や臓器の画像を見ながら遠隔での操作が可能だ。アームの先端には270度の可動域がある7個の関節を有しており、医師は自分の手指のようにアームを操作できる。さらに手の震えを自動的に取り除くことから、より繊細で正確な手術を実現している。開腹手術と比較すると手術中の出血が少なく、小さな傷となるため、術後の痛みが少なく回復も早い傾向が見られる。
現在はダヴィンチを使い、患者から離れた場所にいる医師による遠隔手術の研究も進んでいるという。この仕組みを利用することで、「地方における外科医師不足といった社会課題の解決に期待が寄せられています。」と岩上外科副部長。



幅広い領域で実施
術後の生存率が向上
がん治療においてもダヴィンチによる手術が注目されている。2012年に前立腺がんのロボット支援手術が保険適用になって以来、さまざまな領域でロボット支援手術が行われるようになってきた。前立腺がんに加え、消化器の領域へも広がっており、食道がん、胃がん、大腸がん、膵臓がん、肝臓がんに対して保険診療下でロボット支援手術が受けられる。
同センターも「da Vinci Xi」を2023年12月に導入。外科においては翌年2024年から胃がん・大腸がんに対するロボット手術を開始した。ロボット支援による胃がん手術では、胃全摘術、幽門側胃切除術、噴門側胃切除術の3種を行うことができる。また、大腸がんでのロボット支援による手術実績も増えてきているという。
ダヴィンチの高解像度3D画像、多関節機能、手ぶれ防止機能といった高機能で、従来の腹腔鏡手術よりも精密で安全性の高い手術が可能となった。実際、ロボット支援下施術と鏡視下手術の予後を比較すると、ロボット支援手術の方が術後の合併症が少なく、生存率が高い臨床試験結果も報告されている(右下図)。「特に大腸がんでは、ロボット支援手術に代表される手術技術の向上に加え、抗がん剤などの薬剤の質の向上が目覚ましく、ステージⅣであっても生存率が高くなっています」と久保田外科部長は話す。手術中の身体への負担の軽減ならびに術後の早期回復が期待できるダヴィンチ。導入されてまだ歴史は浅いものの、今後はがん手術においても、ロボット支援手術が主流となることが予想される。


超肥満を改善する
スリーブ胃切除術
さらにダヴィンチによる手術の一つとして「スリーブ状胃切除術による肥満治療」が挙げられる。これは、いわゆる〝超肥満〞とされるBMI値が35以上の患者に対して、胃の大部分を切除・縫合し、胃を細くする手術。肥満の多い欧米では頻繁に行われている肥満治療だ。内科的治療の場合と肥満手術を受けた場合の体重を比較すると、劇的な減量ならびに適正体重の維持が期待できる(左図)。さらに生死に関わる合併症を発症しやすい肥満の改善ができることから、生存率においても6年後以降に優位差も見られ、肥満の効果的な治療法として注目が集まっている。
ただ、手術の保険適応に関しては「6ヵ月の内科的治療を行っても十分な効果が得られていない」、「糖尿病・高血圧症・脂質異常症・閉塞性睡眠時無呼吸症候群など指定の疾患を合併している」といった詳細な条件があり、ニーズが多いとはいえない。ただ、「広く門戸を開いて、いつでも受け入れられる体制を整えています」と久保田外科部長。国立の医療機関として設立した流れもあり、あらゆる診療科目を有する同センター。他の科目との連携を行い、チーム医療で最先端の医療を提供している。


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