「ヒノトリ」による手術
世界的に普及している手術用ロボット「ダヴィンチ」の登場は医療分野にとどまらず、一般の人々の関心を集めた。以降、がん治療においてもめざましい運用実績を聞く中、新たに国産手術支援ロボット「ヒノトリ サージカルロボットシステム」が開発され、県内で初めて『熊本労災病院』が運用開始。日進月歩で変わりゆくがん治療の最前線を取材した。
県内第一号の運用スタート
手術支援ロボット「ヒノトリ」とは、川崎重工業とシスメックスの共同出資により設立された㈱メディカロイドによって開発された国産初の実用型サージカルロボットシステムである。手術用ロボットとしては、すでに米国製のダヴィンチが世界的に普及。「ヒノトリ」の仕様はダヴィンチ同様、外科医専用の操縦席であるサージョンコックピットから、オペレーションユニットを通して手術を精密にコントロール。
3Dシステムの高精細画像で細部まで鮮やかに映し出される。8軸で構成されたオペレーションアームは、人の腕のようになめらかに動き、より手術をスムーズに進めることを可能にした。さらに「ヒノトリ」は「ダヴィンチ」より関節機能が一つ多く、また、人間工学に基づいたサージョンコックピットを有しているとうたっている。これらは、患者にとって侵襲が少ないことはもちろん、手術を行う執刀医の負担を軽減しているという点で注目すべきことのようだ。
出血や他臓器損傷の低減が期待
県内第一号として「ヒノトリ」を導入し、運用しているのが『熊本労災病院』。同院の消化器外科における結腸癌切除術が一例目となった。大腸がんは早期だと自覚症状がほとんどないが、進行すると便に血が混じり、便の表面に血液が付着するといった症状がみられる。「コロナという未曽有の感染症を経験したことで、受診を控える傾向があったかもしれません。ただ、大腸がんは早期に発見すれば治癒率の高い病気です。当院では、1〜2年ごとの大腸がん腸内視鏡検査を推奨しています。
早期であれば内視鏡治療が可能ですが、内視鏡治療が難しい場合の外科手術時に威力を発揮するのが、手術支援ロボットであると考えています。」と井上先生。今回行われたロボット支援下結腸がん切除術は、腹壁に4カ所、0.8〜4㎝の小切開を加え、カメラとロボット鉗子を挿入。「手術時間は従来と変わらず、器械をセッティングする10分〜20分が足されるぐらいです。国産の機種である強みを生かして、実地医療現場の声に応えて、迅速にアップデートされるのではという期待感が大きいです」。
低侵襲なメリットに注目
続いて行われたのがロボット支援下肺葉切除術。「従来の術法では約20㎝切開することもありましたが、今回ロボットを使って、2㎝を4カ所、4㎝を1カ所の切除術を行いました。このような小切開術は、高齢の患者さんにとって負担が少なく術後の早い回復が期待できます」と話すのは呼吸器外科の柴田英克部長。「肺がんは、加齢と共に罹患率が高くなる病気。高齢化に伴い、男性女性ともに増加傾向にあります」と柴田先生。
死亡率からも男性1位、女性2位と、ともに死亡率の高いがんであることが判る(国立がん研究センターがん情報サービス)。一般的に肺がんのリスクが高いのは喫煙者とされるが、非喫煙者の肺腺がん患者も増加している。一方で、肺がんの5年生存率は、1993〜1996年は22・5%であったのに対し、2009〜2011年は34・9%と増加している。「早期に発見し根治手術を行うことが有効だが、手術と抗がん剤治療を組み合わせる事で、確実に生存率が向上しています」と先生は分析する。
患者の負担を軽減
「ヒノトリ」によるロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘術を担当した第二泌尿器科の冨永成一郎部長に聞いてみた。「前立腺とは男性のみにある、くるみ大の臓器です。前立腺がんは高齢者に多くみられ、患者数は年々増える傾向にあります」と冨永先生。前立腺は精液の一部となる前立腺液をつくっているが、それにはPSA(前立腺特異抗原)というタンパク質が含まれている。ほとんどのPSAは前立腺から精液中に分泌されるが、ごく一部は血液中に取り込まれる。「最近よく前立腺がんって聞くようになったと思われている方も多いのではないでしょうか。背景には、高齢化社会や食生活の欧米化。
さらには、健康診断などで血液中に含まれるPSA値を調べる検査が普及したからではと考えます」。「泌尿器科の「ヒノトリ」運用は2025年7月。「ヒノトリを使っての前立腺がんの全摘出術は、従来の開腹術に比べて傷痕が小さく、出血量も少ないなど、患者さんへの侵襲が抑えられます」。前立腺がんの場合、近年は50歳代からの患者も来院。将来的に患者の若年化も危惧される中、ロボットによる根治治療に一層期待が寄せられる。
(独)労働者健康安全機構 熊本労災病院
