(CKD)
わが国の透析患者数は深刻で、約35万人(日本透析医学会統計調査委員会2021年調べ)で、平均年齢は71•6歳と高齢化が進む。要因には透析の前段階である慢性腎臓病(CKD)の増加傾向があるという。そうした中、昨今注目される腎機能の評価・LTEP(エルテップ)を導入し、腎臓病の医療分野を牽引している『国立病院機構熊本医療センター』の腎臓内科・梶原健吾部長に話を聞いた。
LTEPで早期に解析
全国20の政令指定都市において人工透析患者数がトップという熊本市。これを受けて、市はかかりつけ医と腎臓専門医が連携する病診連携プロジェクトを発足。同院は、これに参画する医療機関の一つである。「CKDは患者さんが気づかないうちに腎不全に進行することからサイレントキラーと呼ばれています。このことが適切な治療開始を遅らせる要因でもありましたが、LTEP(Long term eGFRplot)という新しい腎臓病の評価方法により、早期に解析でき、早期介入が可能となりました」と梶原先生は話す。
LTEPとは、左ページのグラフにあるように推算糸球体ろ過量(eGFR)を中心に、慢性腎臓病診療に関連する項目の長期推移を一括してグラフ化。この解析により透析治療が必要になる可能性やその年齢までもが予測されるだけでなく、治療介入後の改善経過・透析回避も評価できる。
「早期解析・早期介入の実現という医療の面からはもちろん、患者さんご自身が現在から将来を一目で理解でき治療に臨めるという〝見える化〞効果に着目しています」。腎臓は〝体内の見張り番〞を担っている。そら豆のような形状をした120g程度の臓器で、左右で1つずつ。「腎臓の役目は、体内の不要な水分や老廃物を尿として体の外へ排出するだけと思われがちですが、他にも血圧の調整、ナトリウムやカリウム、カルシウムなどのミネラルバランスの維持、酸と塩基(ph)のバランスの保持、赤血球を作るホルモンの分泌など多くを担っています。
さらに、人間ドックなどで腎機能の指標である〝推算糸球体ろ過量eGFR〞をご覧になると思います。ろ過量を生み出す糸球体数は加齢でも減少しますが、腎炎、糖尿病や高血圧などではそのスピードが非常に速くなり、気づかないうちに腎不全に至る危険性があります。一度失ってしまった糸球体は回復しません。LTEPによる早期解析・早期介入が重要です」。
SGLT2阻害薬
高齢化に伴って、CKD患者は増加傾向にあるが、一方で効果的な治療薬も登場している。現在複数の治療薬が出てきたが、その一つが国内で2014年に承認されたSGLT2阻害薬である。「SGLT2阻害薬は、本来、糖尿病患者さんの血糖値を下げる薬剤ですが、CKD治療にも有益であることが分かってきました」。
ろ過装置(糸球体)に続く尿の通り道を尿細管といい、尿細管には人体に必要な成分が尿の中に排出されてしまわないように再吸収する機能が備わっている。SGLT2は尿細管に存在し、ナトリウムやブドウ糖を再吸収する役割を果たしているが、SGLT2阻害薬はこの再吸収を阻害する働きがある。結果、腎臓にかかる負担を軽減し、腎臓に保護作用を働きかけ、CKDの進行を遅らせるというのだ。他にも、膵臓に負担をかけない、低血糖のリスクが少ない、体重減少効果があるとみられている。
豊かな〝生活目標〞の意義
新たな国民病ともいわれるCKD診療において最重要課題の一つが、総合的かつ継続的に療養指導していくこと。「CKD治療では薬物治療だけでなく、生活習慣の改善や食事療法も重要です。専門医だけでなく、食事・生活・リハビリなど各分野のスキルをきわめた専門職の指導が有用で、当院はメディカルスタッフによる〝多職種連携(チーム医療)〞を導入しています」。チーム医療とは、腎臓病専門のライセンスを取得した看護師、管理栄養士等のメディカルスタッフを整えた体制。加えて、「専門の医療機関である当院は、リハビリテーションに携わる理学療法士、かかりつけ医や地域医療との橋渡しを行うソーシャルワーカー、薬剤師も関わり、治療効果を最大化できるように努めています」。
多職種のスタッフが介入することで、eGFR低下速度が緩やかになるという実証データも出ているという。また、CKD診療と看護において、治療目標のみにとどまらず、〝生活目標(lifetargets)〞を設定している点を注視。生活目標の一例を見ると、〝孫の結婚式に参加する75歳。ゴルフのスコアが上がる66歳。週末夫婦で散歩に行ける70歳〞などなど。治療目標とは別の楽しみや生きがいに通じた多岐にわたる項目に気付く。そして、生活目標は患者・家族と医療従事者、かかりつけ医で共有する必要性があるという。「慢性疾患を抱えながら、よりよい生活を目指す患者さんの目標を共有することで、チームの視点が治療目標を超えて、患者さんの生活に向く意義が高まります」。LTEP・病診連携体制・多職種連携によって、腎臓病治療の最前線に立つ同院から、今後も目が離せないと感じた。
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