CASE01 大腸がん(集学的がん治療)
大腸がんは、かかる人も亡くなる人も多い。
ロボットによる外科手術に、放射線や化学療法などを組み合わせて、がんに立ち向かう「集学的がん治療」を『熊本赤十字病院』の永末先生に聞いた。
大腸がんの早期発見には
便潜血検査やカメラを
熊本赤十字病院における「がん治療の三本柱」は、①放射線療法②化学療法③手術(開腹・低侵襲)だ。どれか一つではなく、これらを組み合わせた「集学的がん治療」によって、より高い治療効果
を目指している。全国で年間8万人がかかる大腸がんの特徴は、罹患率も死亡率も高いことだ。表1と表2を見ると、大腸がんが男女合わせて一番かかりやすく、亡くなる方も多い。
健康診断では胃カメラを受ける人が増えており、胃がんは発見されやすい。しかし大腸がん検査の便潜血検査においては、便に血が混じっても「痔だろう」と考え、大腸カメラまで受ける人はわずか1割未満。「恥ずかしい」、「面倒臭い」などの理由で大腸カメラに抵抗を持つ人が多い。国は「便潜血検査で陽性であったら、必ず大腸カメラも受診して」と推奨している。
永末先生は「2人に1人が、何らかのがんになる時代。がんは早く見つけることが大事です。胃や大腸などの消化器はカメラで直接見ることができるのがメリット。大腸カメラは麻酔で眠っている間に受けられるので、ぜひ検査していただきたいですね」と語る。


「集学的がん治療」で
患者の負担を減らす
カメラで見て異常があれば、CTスキャンで、がんの進行具合を精査。11段階に分かれているが、がんをきれいに除去する根治術には外科手術が用いられるのが多い。それに加え昨今は「手術前治療」が注目を集めている。手術前に化学療法(放射線など)でがんを縮小↓外科手術↓補助の治療(再発予防)。つまり手術の前と後に、治療する流れができている。
手術前治療がよく効けば、手術しなくてすむ人もいる。基本的には「化学療法は、縮小はしても消失はしない」と言われて来たが、今は多様な薬を使用することで、がんが消失するケースもある。特に直腸がんは薬によって消失するケースが増えている。
以前は手術前治療が効いて縮小したとしても、基本は手術をしていた。しかし摘出後、細胞検査をして、「がん細胞が無くなっていた」という患者も増えている。治療の一番の目的は、がんを取り除いて病気を治すことだが、体の機能をいかに温存できるかも重要である。特に直腸がんは肛門を切除するケースもあり、とてもデリケート。肛門を残したとしても、排便機能が損なわれる場合もあり、大きく取ってしまうと排尿機能まで失うこともある。
がんは治っても機能を失う患者が一定数いるのが、一つの課題だ。大腸がんに罹患した人の場合、人工肛門にはしたくない人が圧倒的に多く、治療方針を決める際には患者とじっくり話す必要がある。「集学的がん治療によって排泄機能を失わずに済めば、患者さんのQOL(生活の質)が上がります。一番のポイントは、がんがなくなったかどうかを正しく判断できるかですね」と永末先生。
手術と免疫療法の融合!
がんが縮小する⁉
新たな治療の選択肢
2018年には免疫療法薬「オプジーボ」が発表され、研究・開発の第一人者である京都大学の本庶佑特別教授はノーベル生理学・医学賞を受賞。この薬は、免疫細胞ががん細胞を攻撃する環境を創り出すため〝夢の薬〞〝奇跡の薬〞と呼ばれて話題になった。
海外では、遺伝子検査を行った中で適応となる直腸がん患者「免疫チェックポイント阻害薬」を使用すると、かなりの高確率でがん細胞の縮小・消滅につながるという報告があり、更なる研究が進められている。消えた場合、もしくは縮小した場合、その後の治療をどうするか。今までは全摘手術が一般的だったが、海外では局所のみ切除する治療も始まっている。とは言え、海外でもまだ標準化しておらず、また保険適用外の場合、非常に高額になるだろう。


低侵襲手術で
傷跡も小さく
同院では、低侵襲手術の一つである内視鏡手術支援ロボット〝ダヴィンチ〞による手術が主流である。どの程度の傷かは種類によるが、図1の右のように5ケ所程度で済む。「侵襲(しんしゅう)」とは身体の恒常性を乱す、すべての影響のこと。同院の「低侵襲手術」によって、傷が癒える時間や痛み、また感染リスクが軽減され、大腸がんの入院日数は8日〜10日程度。人工肛門の場合もう少し長くなるが、基本的には1週間をめどに退院している。
しかしロボットの最大のメリットは、骨盤という狭い空間で精密な手術が可能だという点だ。人間の手首と違って360度回転し、細かい動きができる。さらに3Dの高画質画像で拡大しながら行うロボット手術のおかげで身体への負担が少なく、高齢者でも手術を受けることができるようになった。胃や大腸などの消化管は動くので、放射線を当てるという治療は適さない。放射線腸炎になってしまう。昔はリンパまですべて除去していたので、神経障害を起こす場合もあったが、ロボット手術の導入で減っている。
永末先生は、「僕はもともと、『大都市でも地方でも治療に差を付けたくない』と考えています。大腸がんに関しては、熊本にいても日本の先進の治療を受けていただくことを目指して、色々取り組んでいます」と語る。手術前治療では、NOM(ノン・オペレーティブ・マネジメント〝非手術療法〞)という選択肢もある。NOMは今のところ直腸がんだけだ。大腸がんは遺伝性のものではない限りは、生活環境と習慣が密接に関係している。わかりやすいのが肥満体型と運動不足だ。肥満イコールがんになりやすいわけではないが、大腸がん患者は太っていることが多い。原因は肉食中心の欧米型の食事だと思われる。加工肉を控えて繊維質を食べ、適度に運動することが重要だ
日本赤十字社 熊本赤十字病院

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