“人生100年時代の生きるを満たす ”
2025年、20周年を迎える桜十字病院。高齢者医療に向き合ってきた桜十字が、次の10年に向けて
「WELL-BEING FRONTIER」というスローガンを掲げ、関わる人すべてを幸せに“生きるを満たす”医療を提供。
患者のQOL向上を目指す取り組みについて聞いた。

630床を有する大病院新たなステージへ
2005年に始まった桜十字病院は、630床を誇る熊本県最大規模の民間病院である。
「桜十字に関わる全ての人が幸せとなるモデルを全国へ」という理念のもと、
「WELL-BEING FRONTIER」というスローガンを新たに掲げ、身体的のみならず、
精神的、社会的にも良好で満たされた医療の提供を目指している。
回復から、その先の幸せへ
桜十字の脳卒中リハビリ
2016年、回復期リハ病棟を『脳卒中リハビリセンター』とし「回復期から生活期まで切れ目のないサポート」をおこなうため多職種で連携して、リハビリに尽力している。救急病院は脳卒中などになった人の救命が主な役割だ。一方で回復期病棟のある同院は、救急治療後の在宅復帰、社会復帰をサポートし、その先の生活、人生が豊かなものとなるよう様々な形で支援している。リハビリテーション科で回復期専従の川嵜真先生に話を聞いた。



手のリハビリ&復職支援
同院には手のリハビリロボットや、電気刺激で手を動かし、モニターで計測できるシステムを完備している。「手のリハビリに前向きなセラピストは多いですが、積極的に取り組む医師はあまり多くありません。私は患者さまがもとの生活に戻れるよう、様々な手法を取り入れています。たとえば『ReoGo-J』を使った先進のリハビリなど、他ではあまり導入されていない治療も取り入れています」と川嵜先生は想いを述べる。
また、同院の回復期リハ病棟患者の平均年齢は全国平均の73・8歳に対して66・3歳と、復職を目指す患者が多いのも特徴だ。就労年齢で脳卒中にかかった患者は、日常生活動作のみならず、復職も目標とするため、復職支援も積極的におこなっている。仕事内容・従業員数・配置転換の可否などについて職場と情報共有するために、独自の "情報共有シート" を作成。『運転は無理だがデスクワークはOK』など、適性を職場で理解してもらい復帰に向けての準備を進める。
自動車運転再開支援は
シミュレーター&実車で
通勤や通院、買い物などで車の運転が必要となる支援者も多いため、自動車運転再開支援にも注力している。ドライブシミュレーターでの運転訓練の後、公道で走れるレベルか検査をおこなう。2017年度〜
2023年度で364件中、78%もの患者が運転再開できた(同院の基準による)。自宅に戻った後に「運転をチャレンジしたい」という場合には、短期間だけ再入院し、集中して運転訓練を受講することも可能だ。
まさに ”回復期からのシームレスなサポート” をおこなっている。

リハビリで "患者の明日" を
支えるセラピスト
患者の日常生活の復帰に向けたリハビリを支えるのは、多職種のセラピストたち。
理学療法士134名、作業療法士54名、言語聴覚士32名が在籍し、
より専門的なアプローチでリハビリをおこなっている。各分野の専門家に話を聞いた。

理学療法士
リハビリの第一歩は、歩行練習。脳卒中になると手足が麻痺する人や足に力が入りにくい人も多い。理学療法士の脇田陽さんは、「歩くと膝がガクッと崩れる方は、安定性を担保しながら歩行練習が行える長下肢装具を使用することがあります。患者さまに合わせてサポートし、積極的な運動療法を実施します。歩けるようになることは、自由に移動できるようになることです。トイレに行く、外出するといったすべての基盤となる歩行を獲得することが、患者さまの生活を変えると考えています」と語る。

作業療法士
退院後に、入浴・着替えなどの日常生活動作が、可能な限り自分でできることを目指したリハビリをおこなう。時には自宅に手すりなどの福祉用具を提案。「例えば、看護師にご自宅の状況を説明し、安全な動作をするための相談をしたり、危険を回避するための提案をもらったりなど、情報交換しています」と作業療法士の岩下香織さんは語る。最終ゴールは、自宅で安全に日常生活をおこなえ、その人らしく生活できること。経口摂取にも力を入れ、自助箸やすべりにくい食器などを取り入れながら患者をサポートしている。
言語聴覚士
言語聴覚士の中山貴之さんは「当院では " 口から食べるプロジェクト" を実施していることもあり、32名の言語聴覚士全員が摂食嚥下障がいに関する訓練をしています。問題点を洗い出し、それに応じて訓練を立案しています」と語る。特に高齢者は円背になりがちで、脳卒中患者は麻痺を認める場合がある。そのため、患者の状況に応じていかに食べやすい姿勢を調整するかもセラピストの役目だ。同院の言語聴覚士による摂食機能療法の件数は5499件(2023年度)にも達する。

チーム医療の " 生きるを満たす "
取り組み
医師や前ページのセラピスト以外にも、看護師・薬剤師・管理栄養士・
歯科医師・歯科衛生士・介護士・臨床工学技士・医療ソーシャルワーカー・
事務スタッフなどによるチーム医療をおこなっている。

患者に寄り添い
心も満たすケアを目指す
看護師
回復期リハビリテーション病棟師長の川原佑太さんは「今まで自立した生活をしていた方が、脳疾患や骨折などで介助が必要となり不自由な部分が生じてしまう、という例は多くあります。身体的にはもちろん、精神的にも苦痛を感じていらっしゃる患者さまと接する中で、多職種での連携は不可欠ですね」と語る。医師・看護師・介護士・リハビリスタッフ・医療ソーシャルワーカー・薬剤師・管理栄養士などでカンファレンスを密におこない、患者の心身に寄り添ったケアが必要とされている。「さらに当院では、ご家族や社会との繋がりも重視しております。大切な想いを手紙で伝えるためのレタールームやスポーツを通じた社会参加を促すヴォルカフェの運営など、事務スタッフも含めた全職種が協力してWELL-BEING な取り組みを実施しています 」と川原さんは同院独自のサポートを語る。
入院時から退院後を
見据えた栄養管理
管理栄養士
リハビリでは、動いた負荷分の栄養を十分に摂る必要がある。「退院後を見据えた栄養プランを立案・実施し、再発予防を目的とした〝攻めの栄養管理〞をおこなっています」と石井真子さん。〝口から食べる〞ことを目指すために、噛む力や飲み込む力に応じた食事の形の調整などを言語聴覚士や歯科衛生士らと話し合っている。週に一度の栄養カンファレンスでは「なぜ口から食べることができないのか」「体重減
少・増加の原因と対策は?」などを検討。また、栄養面はもちろんだが、食欲が湧くような食事を嚥下食でも実践し、入院生活に彩りを添えるようなメニューを心がけている。



ポリファーマシー
対策に注力する
薬剤師
「高齢の方は〝ポリファーマシー(害のある多剤服用)〞の課題があるため、対策に力を入れています」と木村彩さん。持病がある上に他の疾患が重なって入院すると、たくさんの薬を服用することになる。特に生理機能が低くなっている高齢者は副作用が出やすい。多職種で相談しながら、回復期では不要な薬や副作用の恐れのある薬を止めたり減らしたりしている。また「痛みがある」「血圧が低すぎる」などの理由でリハビリできない場合は、セラピストと相談して薬を調整。手が麻痺し、薬を開封しづらい人には、開封のリハビリからおこなってもらうこともある。退院後に一人暮らしになる場合、服用は1日3回ではなく、家族や訪問介護者が協力しやすい時間帯1回の服用に変更するなど、きめ細かく飲み忘れを防ぐ対応もしている。

退院後、治療と仕事の
両立支援が復帰のカギ
医療ソーシャルワーカー(MSW)
「WELL-BEING FRONTIER」を目指す桜十字病院で、主に社会的支援をおこなっているのは社会福祉士や両立支援コーディネーターの資格を持つ医療ソーシャルワーカーである。「高齢者に多い、施設や介護保険を活用したサービスの選定支援はもちろん、働き盛りの世代である患者さまには職場復帰・学校復帰のため関係機関と連絡を取り、地域に出向いて支援をしています。患者さまが抱える様々な課題の心理的不安に寄り添い、多職種でチームとなって課題解決に動いています。患者さまの退院後の未来を支援するためにも、日頃から院内外との関わりを大切にしています」と芹川晃さん。脳卒中リハビリセンターには、専任の医療ソーシャルワーカーが常駐。さらに、相談窓口を玄関付近に設置することで相談しやすい体制作りを進め、社会的支援はもちろん、精神面でも患者を支えている。
外来が癒しの空間へリニューアル
2024年秋、外来診療スペースがリニューアルされた。同院の建設チームが3年かけてプランニングした〝グリーンを感じる開放感ある空間〞だ。ロビーに新設された巨大モニターには、病院のお知らせや熊本ヴォルターズ情報が投影されている。魚たちが優雅に泳ぐアクアリウムもあり、穏やかで心安らぐ空間となっている。専門外来の一つとして、睡眠時無呼吸症候群(SAS)外来がある。「膝の手術で入院したらSASだと発覚」というケースもあるそうだ。「日本人の場合、恰幅の良い男性や小柄な女性にも多い疾患です。また、高血圧や糖尿病、脳血管疾患などの生活習慣病の方は、SASの可能性を疑ってほしいです」と青木志保先生。1泊入院検査や自宅での検査もできるので、いびきをかく人は受診してみるといいだろう。新たな外来や熊本では導入例が少ない医療機器を活用している脳卒中リハ、そして、生活期までの多職種によるサポートなど、魅力あふれる同院に興味がある方は、問い合わせてみてほしい。



医療法人 桜十字 桜十字病院

