「そけいヘルニア」の専門医がより低侵襲な手術法を提供
『八代北部地域医療センター』内にある県内唯一※の『鼠経(鼡径)ヘルニアセンター』。男女問わず乳児期
から高齢者まで発症し、国内で最も多くの手術が行われている疾患が「そけいヘルニア」だ。同センターに
よる先進の治療への取り組みを伺った。 ※2025年3月現在
そけい部の膨らみや痛みが
あればヘルニアかも
脚の付け根に近いお腹(そけい部)の腹壁の穴から、臓器や脂肪が壁の外にでっぱる疾患を「そけい部ヘルニア」と呼ぶ。症状としては、お腹に力を入れたり立っているときに、そけい部が膨らんで見えるが、膨らみが目立たずそけい部の痛みやつっぱり感で気づくこともあるそうだ。「そけい部ヘルニアは全年齢で発症しますが特に小児では男女ともに乳幼児期、おとなでは50才以降の男性に多くみられます。しかし女性にも発症し、婦人科を受診されるケースもあり、当院では新たに開設した婦人科の医師とも連携して診療しております」と吉田院長。
そけい部ヘルニアは症状と診察のみで診断し、必要時にCT検査を行う施設もあるが、同院では超音波検査を実施し診断する。吉田院長は「超音波検査は、CT検査のようなX線被ばくがないので安心して検査を受けていただけます。診察のみと比べ高い精度でヘルニアを診断できるため、的確な治療方針の決定に役立ちます。ただし、正確な超音波診断には経験が必要であり、当院では外科医自ら検査を行います」と語る。


放っておくと腸閉塞などを
合併し危険なことも
ヘルニアで出た臓器が戻らなくなり血流障害や腸閉塞を起こす「嵌頓(かんとん)」になると、痛みやお腹の張り、吐き気などの症状が出て、重篤な状態で緊急手術が必要となることもあるそうだ。「嵌頓のリスクは1年で平均1%程度ですが、乳児や50才以上の方、女性の大腿ヘルニアは嵌頓のリスクが高いとされます。身近で、時として重篤になる疾患だからこそ、当院では経験豊富な外科医・小児外科医・麻酔科医が担当して、適切な治療法を選択します」と吉田院長。
おとなは手術法や麻酔法を
選ぶことができる
おとなのヘルニアは、腹壁の穴を塞ぎ周囲を補強する手術を行うが、その方法としてそけい部切開法と腹腔鏡下手術がある。さらに壁の補強方法として、穴の周りの組織を縫い合わせる「組織縫合法」と網状の人口シートを使用する「メッシュ法」があるそうだ。縫合の方法やメッシュの種類は様々で、麻酔もそけい部の局所麻酔や下半身麻酔、各種全身麻酔まで選択肢が多い。同院ではヘルニアの大きさ、患者の年齢、職種、持病などを考慮し、患者に適する手術法、メッシュの種類、麻酔法を選択できる。
腹腔鏡手術は、そけい部切開法と比べて、切開創が小さく、術後翌日からでも疼痛が少ない。そのため職場や日常生活への復帰が早い点が大きなメリット。「最近当院では、従来の腹腔鏡手術と比べ、より細い器具を使用することで、さらに小さな切開創での手術を行っております」と吉田院長。一方、そけい部切開法の場合、同院では局所麻酔での手術を選択できる。「局所麻酔は手術当日の歩行や排尿への影響がなく、高齢者や心疾患・肺疾患をお持ちの方でも体に負担が少ない麻酔法です。手術法と患者さんの状態に合わせ、担当する麻酔科医師とも連携し麻酔法を選択します」と吉田院長。常に患者が納得し適切な手術を選べるというのも専門外来ならではだろう。


子どもの手術もさらに
低侵襲になる取り組み
小児でもそけい部切開法と腹腔鏡手術があるがメッシュは使用しない。そけい部切開法では、通常そけい部の皮膚と腹筋の膜を10〜30㎜程切開しヘルニアの袋を糸で縛って閉じる。一方同院で採用している腹腔鏡下手術である「LPEC法」では、へそから5㎜のカメラとその横から2㎜の器具を入れて小さな創で手術を行う。「当院のLPEC法は切開創が小さいだけでなく、ヘルニアの袋のすぐ横にある精管との間に生理食塩水を少量注入することでヘルニアを縛る糸を通す隙間を作り、周囲組織への影響を最小限にする取り組みも行っております」と吉田院長。同院では臍ヘルニア(でべそ)や停留精巣手術も行っており、そけいヘルニアと同時に手術ができる。おとなも小児も、手術は経験豊かな小児外科医・外科医・麻酔科医が担当している。基本的には手術翌朝、若しくは手術当日の退院で、日常生活への復帰も早い。



一般社団法人 八代郡市医師会 八代北部地域医療センター

インフォメーション
2024年9月28日「第17回九州ヘルニア研究会学術集会」で、吉田院長がそけい部ヘルニアの超音波診断・手術手技のセミナーを開催した。
